給与デジタル払い制度が静かにスタート~これから何がどう変わる?

2023年4月から新たに、「給与デジタル払」の制度が始まるのをご存知でしょうか?
給与デジタル払とは、キャッシュレス決済、いわゆる○○ペイなどの電子決済の方法で、給与が支払われる仕組みの事を指します。この改正は、昨年決定した労働基準法の施行規則の改正で、この4月から施行されるものです。

私達が会社から受け取る給与は、支払い方法にも規定があります。
労働基準法では、「賃金は、通貨で直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と規定されています。
本来は、通貨、つまり現金で支払うものなんですね。
そして、例外的な方法として、銀行預金口座への振込が認められています。
ここに、新たな方法として、キャッシュレス決済が認められるようになった、ということです。

昭和40年代までは、給与も現金振り込みが一般的でした。
確かに、現在ほどATMも普及していなかったので、それが現実的な方法だったのかも知れません。
しかし、昭和43年に3億円強奪事件が発生します。
このとき襲われた現金輸送車は、東芝の社員のボーナスのための現金を運搬していたという事です。
この事件をきっかけに、給与の銀行振り込みが普及したとも言われています。

今回の改正は、50年以上変わらなかった給与支払いの仕組みに、新たな方法が認められるようになった、ということになります。そう考えると、さほど話題にはなりませんが、かなり大きな変更と捉えて良いのではないでしょうか。

 

とは言っても、すぐにスタートするわけではない

では4月から、会社に申請したら給与を自分の使用する○○ペイ等に送金してもらえるのかというと、そうではありません
まずは、この仕組みに参加を希望するキャッシュレス決済業者(資金移動業者と言います)が申請をして、厚生労働省が審査をすることになります。そして、その審査後に、各企業と資金決済業者が契約をし、希望する従業員に対ししかるべき手続きをして、実際支払いが開始されることになります。

そのため、どの業者の決済が利用可能かとか、具体的な手続き方法は、現時点ではわかりません。
しかし、大手の業者についてはいずれ利用できることになると考えて良いと思います。

また企業側も、多くの従業員に、定期的にデジタル支払いをする仕組みの整備も必要になります。
この点は、例えば米国などでは「ペイロールカード」と呼ばれる、振込を受け付ける機能を持ったカードが発行されています。このカードは銀行と紐づけされませんが、資金移動業者のキャッシュレス決済のシステムと紐づけされ、資金が移動することになります。日本でも今後こうした仕組みが整備されるものと思います。

このように、法律は改正したものの、現在はまだ準備段階です。今後業者の認可やシステムの導入にまだ多くの時間を要することが見込まれます。
日本で実際デジタル給与支払いが始まるのは、少なくとも1~2年経過してからになるでしょう。それまでに、徐々に認知されていくのではないかと思います。

 

給与デジタル払いのメリットとデメリット

給与デジタル払には、以下の様なメリットとデメリットがあります。

給与デジタル払のメリット

〇振込手数料などのコスト削減
銀行への手数料よりもキャッシュレス決済業者(資金移動業者と言います)への手数料の方が少ないため、給与を支払う側のコスト削減につながります。この点が導入を進める大きな理由になると思います。

〇銀行口座を持たない人も給与を受け取れる
銀行口座が無くても給与を支払うことができるため、一時的な労働者や外国人などにも支払うことが容易です。今回の施策は労働人口を増やすのも一つの目的と言われています。外国人などは、母国への送金も容易になります。

〇ATMで引き出す必要が無い
給与を受け取る側も、ATMで引き出す必要が無いため、手間がかかりません。給料日にATMが行列するようなことも減るでしょう。

 

給与デジタル払のデメリット

〇入金額に上限がある
資金移動業者に預けられる金額は、現在の法律では100万円が上限となります。実際の給与支払いは100万円以下でも、受け取る側の残額が100万円を超えると、超過分は銀行に送金されます。この点は、管理が厄介かもしれません。一定のセキュリティ対策を施したうえで、改善が必要になると思います。

〇資金移動業者の破綻リスク
銀行は1000万円までの預金とその利息までは預金者保護の制度がありますが、資金決済業者はそこまでの保護の仕組みは無く、別途保証機関等での保障が必要になります。

〇事務手続きの増加
デジタル払を導入するときは事務手続きや従業員の意思確認が必要です。また銀行口座も併用するため、開始当初の事務手続きは増加することが見込まれます。

 

このように、現状ではデメリットも目立ちます。
しかし、今後普及していく過程で、利便性を考えて、改善される点も増えてくるでしょう。

 

日本はキャッシュレス決済が遅れている

そもそも、日本はキャッシュレス決済の普及が、他の国々より大きく遅れています

一般社団法人キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ2022」によると、2020年の調査で、キャッシュレス決済が最も進んでいるのは韓国で、決済額全体の93.6%はキャッシュレス決済となっています。
次いで中国約83%・オーストラリア約68%・米国約56%などとなっていますが、日本は29.8%と、まだ3割にも満たない低い水準になっています。
調査方法が異なるのでこの数字だけで単純比較はできませんが、それでも日本は諸外国よりキャッシュレス決済が遅れていることは確かです。

日本は治安が良いので現金を持ち歩いても問題ない、偽造紙幣が出回ることも少ない、など、普及が遅れている理由もそれなりにあります。また、様々な規制も多く、新しい制度を導入するのに時間を要するのは、日本においてはどの分野にも言えることです。

しかし、最近になって決済業者も増え、マイナポイントが受け取れるなどの国の施策も後押しして、ようやく普及に弾みがついてきた感があります。新型コロナの感染リスクが懸念されたのも一因でしょう。
先ほどの普及率の統計でも、日本の普及率は2015年から年間平均10%以上のペースで増加しており、増加率については他の諸外国よりも高くなっています。

 

デジタル決済の普及は既定路線・今後急激に広まっていく

今回認められるようになった給与デジタル払い。
導入当初は、さほど大きな利便性が感じられないかもしれません。

しかし、諸外国と同様、今後、給与支払いはじめデジタル決済は更に普及していきます
その体制整備の一環と考えれば、この時期の制度導入も早すぎるという事はないでしょう。

例えば、給料日の多い25日には、銀行のATMには長い列ができていますね。
給与デジタル払いが普及すれば、こうした面倒からは解放されます。

考えてみると、ATMから現金を引き出したり、他の口座へ振り込む際に、いちいち手数料を支払ったりするのも、私達は慣れてしまって普通と考えていますが、結構コストがかかるものですよね。
こうした非効率な面が減っていくことで、利便性も徐々に認識されていくと思います。

日常的にも、例えば飲食代金の割り勘や、ちょっとした金額の受け渡しは、キャッシュレス決済を通して送金ができますね。端数などが出た場合に、小銭を持ち合わせていなくても精算できるので便利です。
最近では若い方を中心に、現金を持ち合わせていないという方も多い様です。

また、ポイントを獲得できるのもデジタル決済の魅力です。
日常の買い物をデジタル決済し、その決済の入金もクレジットカードを通して行うことにより、買い物をした分の1~2%のポイントを獲得することができます。仮に月に10万円のデジタル決済を利用して、2%のポイントが付与した場合、年間で2万4千ポイントも取得できます。
こうしたポイント獲得は、デジタル給与払いを受け付ける時も、キャンペーンなどが組まれるかも知れませんね。

一方で、高齢者などはスマホの使用などデジタル関係は苦手と敬遠される方もいます。
もちろん、高齢の方はデジタル給与支払いとは無縁かも知れませんが、いずれ年金などもデジタル受取が普及するかも知れません。高齢者が使用できないからと言って、非効率な方法を残すという時代ではなくなっています
例えばマイナポイントの様な国の施策でも、デジタルツールを活用した方が恩恵を受けられるという仕組みになっています。

今後更にデジタル決済は広がることを考えれば、80歳でも90歳でも、使えるようにしておくのが得策でしょう。
日常的に出かけたり買い物をしたりする人ならば、利用するのはさほど難しいものではありません。
初期設定だけご家族や周囲の方のサポートをしてもらえば、あとは慣れてくると思います。

 

将来的にはデジタル通貨の発行も?
デジタル給与支払いを機に、キャッシュレス決済の積極利用を

デジタル給与支払いが始まっても、銀行を利用する優位性は変わらないコメントしている銀行もありました。
しかし、決してそのような事はないと思います。
今はまださほど広まっていませんが、利便性が認識されれば、一気に普及する可能性もあります。
その様に考えている銀行こそ、時代の流れに取り残されてしまう事になるでしょう。

今後は更に、デジタル通貨を発行するという流れもあります。
デジタル通貨は、中央銀行が紙幣や硬貨の代わりに、通貨自体をデジタル化して発行し、管理・保存・交換ができるようにする仕組みです。法定通貨を基準にしているという点で、現在の電子マネー等とは異なります。

こちらも海外諸国では導入が検討されており、実際にスウェーデンでは、通貨クローナのデジタル版eクローナの発行が発表されています。
日本でも円のデジタル通貨について、技術的な検討がされ始めました。
もちろん、法律の改正やセキュリティ体制の構築など課題は多く、すぐに導入されることはありませんが、いずれ、デジタル通貨での取引が一般的になる日が来る可能性が高いでしょう。

給与のデジタル払い制度。現段階では静かなスタートになりそうですが、半世紀以上の習慣を変える可能性のある制度変更です。これを機に、更にキャッシュレス決済を積極的に活用して、来るキャッシュレス決済時代、デジタル通貨時代に備えておく必要があるでしょう

ちなみに、当オフィスの相談料は対面の場合に限りPayPayでご精算いただけます。
今後更に幅広いキャッシュレス決済やクレジットカード等に対応していかないといけませんね。

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