新年度のいま取り組みたい、金融資産の「棚卸し」と資金の「仕分け」

最近になって、「貯蓄から投資へ」という世の中の流れもあり、それまで預金一辺倒だった手元の資金を、運用に回そうと考える方のご相談が増えています。
とは言え、運用に回すという事はそれなりにリスクも抱えるという事、どの程度の資金を回して良いものか、悩む方も増えているようです。

そこでお勧めしたいのが、いま保有している金融資産の「棚卸し」、そしてそれら資産の目的別の「仕分け」です。

今はちょうど新年度、お子さんがいるご家庭では、進学や進級で、収支状況が大きく変わるご家庭もあるでしょう。
お勤めの方は、会社の組織変更や異動で働き方が変わったという方もいらっしゃるかも知れません。
この時期は、今後当面の収支の見通しが立ってくる頃ではないでしょうか?

そのような意味でも、この新年度は、保有している金融資産を現状把握、つまり「棚卸し」して、今後の資金の置き場や管理方法を検討する「仕分け」をするのに、非常に良い時期になると思います。

今回は、新年度のいま、資産運用をする上でも役立つ、保有している金融資産の「棚卸し」と、それら資金の「仕分け」のポイントを、確認していきたいと思います。

 

金融資産の「棚卸し」~どこにどれほど資産があるのか

金融資産の「棚卸し」の最大の目的は、今どの程度資産を保有するのかという「現状把握」です

何事も対策を立てるには、現状の把握から始まりますね。

まずは、自分の保有する金融資産を、表などにまとめてみます。
項目としては、主に以下の様なものが挙げられます。

〇現金
現在財布に入っている現金・家にある現金やタンス預金など含め、置き場と金額を確認します。

〇預金
金融機関に預けている普通預金・定期預金を確認します。
なお、外貨預金など、為替で変動する商品は、日本円に換算します。

〇会社の財形貯蓄・持株会の保有株式・確定拠出年金
いずれも現在の残高を確認します。

〇キャッシュレス決済のチャージ済額
○○Payなどのキャッシュレス決済・交通系ICなど、チャージされている金額を確認します。
ポイントについても、数万円といったまとまった金額で、店舗を限定せず利用できる汎用性の高いものは、含めても良いでしょう。ただし、有効期限に注意が必要です。

〇株式・投資信託・債券・ETFなど運用商品
現在の価格を確認します。
株式や債券であれば銘柄ごとに、投資信託やETFは商品ごとに確認します。
外国株や債券などで外貨建てのものは、円に換算しておきます。
ただし、会社の非上場株など、売却が難しい株式等はここでは棚卸資産には含めません。

〇保険商品
終身保険・年金保険など、貯蓄性があり、将来解約金を受け取って活用する予定のある保険は、現時点での解約金を確認します。こちらも外貨建ての商品は円に換算します。
解約金は保険会社のコールセンター等で確認できるほか、WEBサイトから確認できる場合もあります。
ただし、例えば数年後にお祝い金が受け取れる医療保険などで、今解約すると解約金の出るものがありますが、解約を前提としていないものは、ここでは棚卸資産に含めないようにします。

〇暗号資産・FX・その他運用商品
こちらも時価を確認しますが、暗号資産・FX等は価格変動が激しいので、できるだけ最新の情報を確認する必要があります。もっとも、暗号資産やFXをやる方は、毎日のように資産価格を確認しているかもしれませんね。

〇その他
ゴルフ会員権など、売却して現金化できるものは含めておきます。
ただし、生涯売却しないという商品は除きます。
敷金・保証金・立替金・相続財産なども、1年以内に入金が見込まれるものは、含めても良いでしょう。

以上、こうして見ると、様々な所に資産が置いてあることが再確認できるのではないでしょうか?

そして、これらの資産が全体でどの程度あるかを確認します。
1円単位まで細かく見る必要はないでしょう。1万円単位程度で良いかもしれません。

なお、ここでは原則金融資産を対象とします。
住んでいる家・自家用車などの資産は、1年以内に売却するといった場合を除き、含めなくて問題ありません。
一方、不動産投資をされている方で、将来売却する前提の資産として保有している場合は、金融資産ではありませんが、ある程度の時価は確認しておくと良いでしょう。

一方で、借入金についても確認が必要です。
住宅ローンや自動車ローンなど、毎月一定の金額が引き去られるものは問題ないですが、クレジットカードからの借り入れ・リボルビング払いなどは早く返済をしないと借入金が膨らんでしまいます。

他の資産が少ないので借り入れをしているケースがほとんどかも知れませんが、もし他の金融資産があるのならば、それを減らしてでも、返済を優先させるべき借入金です。早期返済すべき金利の高い借入金は、保有資産から差し引く形で確認をしておきます。

こうして一つ一つ確認した現状の資産を合計して表にまとめ、現在保有する金融資産の額を算出します。
自分の資産について、それまでざっくりと把握していた方も、具体的な金額が出てくるので、現実味が沸いてくると思います。

また、こんな所に多くの資産があるんだ、とか、株価がこんなに変動していた、など、想定していなかった面も見えてくるかもしれません。
その様な意味でも、月に1度は大変かもしれませんが、せめて年に1回は、こうした自分の資産の棚卸をお勧めしたいと思います。

 

今後必要になる資金を、使用時期に応じて「仕分け」する

さて、このようにして棚卸しされた資産、いろいろな所に分散されている方もいれば、ほぼ預金のみという方もいらっしゃるかも知れません。

そこで次に考えるのは、今後の使用時期・使用目的に合わせた資金の「仕分け」です
資金の「仕分け」は、まず大きく以下の3つに分類するとわかりやすくなると思います。

(1)「いま」使う資金
日常的に必要な生活費などの資金です。
出し入れしやすくいつも動いている資金のため、「流動資金」と呼ばれることもあります。

おおよその月の生活費を確認して、会社員の方であれば半年分、自営業やフリーランスの方であれば1年分を目安に、いつでも出し入れできる現金または普通預金で確保しておきます。証券会社のMRF(マネー・リザーブ・ファンド:安全性の高い公社債投資信託)でも良いと思います。
例えば、月の生活費が20万円であれば、会社員の方は120万円、自営業の方は240万円が目安です。

金融資産全体ではこの資金を確保しているけれども、株式や保険などを含めないと現預金だけでは不足するというケースもあるかと思います。
その場合でも、すぐ株式を売却したり保険を解約したりする必要はないですが、貯金を増やすなど、計画的にこの「流動資金」を確保する準備を進めると良いでしょう。

(2)「何か」に使う資金
おおむね1~5年以内を目安に使う事が決まっている資金です。
例えばお子様がいる場合、5年以内の受験や学費などの教育資金は、どの程度必要か大体めどがつくと思います。
車や家を購入する計画があれば、当所支払う一定の資金を確保しておく必要がありますね。
また、大型家電購入なども必要かもしれません。

車検費用や火災保険の保険料など、数年に一度請求が来るものも、ここで把握をしておきたいところです。

これらの資金は、使用する時期と金額にもよりますが、預金または債券など、リスクの少ない方法で確保しておく必要があります。インターネット専用銀行の、利率がやや高い定期預金などを活用しても良いと思います。
いずれにしてもこの「何か」に使う資金は、「いま」使う資金と口座を分けておくと、管理がしやすくなると思います

(3)「いつか」使う資金
上記の「いま」使う資金、「何か」に使う資金以外の資金が、この「いつか」使う資金になります。
「いま」使う資金・「何か」に使う資金がしっかり確保されていれば、この「いつか」使う資金は、運用に回せる資金と考えて良いでしょう

 

このように、まずは手元の資金を「いま」・「何か」・「いつか」に仕分けしてみると、棚卸した資産の適切な置き場が見えてくると思います

中には、「いま」の資金だけで手元資金は目いっぱいという方もいるかもしれませんね。
その様な場合は、着実に貯金を増やす・支出を減らすといった対策がまずは必要になります。
一方で、現在は「何か」の資金が不足していても、今後の収入の見通しで確保のめどがつけば、問題はありません。

このように、・現在の金融資産の「棚卸し」 ・資金の3つの「仕分け」、で、家計の課題も見えてくるようになります。
「いま」「何か」の資金の目途がある程度立ち、一部を「いつか」の資金に回せる状況であれば良いと思います。
「棚卸し」の結果を踏まえながら、資金を「仕分け」して、それぞれ置き場が適切か、金融資産に不足は無いか、まずは確認をしてみましょう。

 

「いつか」使う資金~「ポートフォリオ」を検討する

さて、こうして出てきた「いつか」使う資金、すなわち運用に回せる資金はどの程度確保できそうでしょうか?
もちろん、年齢やご家族状況により金額は様々になるかと思います。
また、「いま」の資金で手一杯という方でも、今後少しずつ積立てして準備をするという形でも良いと思います。

「いつか」使う資金が十分確保できているようであれば、この資金をバランスよく分散して運用しておく方法を検討します。
このような、資産の分散の組み合わせの事を、金融用語で「ポートフォリオ」と呼びます。

ポートフォリオは、もともと複数の書類を持ち運ぶための書類ケースの事を指します。
また、自分の作品集や実績などをまとめた資料を、ポートフォリオと呼ぶこともあります。

ここで言うポートフォリオは、ポートフォリオを組む・ポートフォリオを検討するといった具合に使います。
まず自分の資産を棚卸出来たところで、バランスの良いポートフォリオを組んでいくことが必要です。

この、「いつか」使う資金のメインの運用方法としてお勧めしたいのは、長期分散運用です
手数料の安いインデックス投資信託で、投資先をバランスよく分散して保有します。
このバランスについては、年齢や家族状況・リスクの許容度により人それぞれなので一概にはお伝え出来ませんが、運用期間が10年以上であれば、先進国株や日本株など、株式を中心とした投資信託を中心に運用するのが良いでしょう。

来年から利用枠が拡大されるNISA口座をすれば、つみたて投資枠で年間120万円・成長投資枠で年間240万円までが非課税口座で運用可能になります。
また老後資金と決めて運用するなら、預ける方法は毎月積み立てになりますが、勤務先の確定拠出年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)を活用するのも良いですね。

これら運用に回す資金は、「半分になっても困らない額」を目安にすると良いと思います
いくら分散投資をしていても、世界的な金融ショックが来れば、運用資産は大幅に下落することもあります。
例えば、長期的に上昇を続けている米国の株価指標NYダウも、2008円のリーマンショックの際は1年間で12000ドル台が6000ドル台に、また3年前のコロナショックの際は2カ月で29000ドル台が18000ドル台になりました。

この様な時に、仮に1000万円を米国株式で運用していれば、4~500万円といった資産が目減りすることになります(為替の影響を除く)。
そこで動揺して運用を止めてしまうと、資産を減らすばかりでなく、今後2度と運用をしないなどと考えて、将来の運用の機会を失ってしまう事にもなりかねません。

しかし、大きなショックが生じても、多くの場合数年後には下落分を取り戻しています。
そのため、こうした状況になっても冷静に運用を継続できる金額が、運用金額の一つの目安になるかと思います。

もっとも、「いま」「何か」の資金さえ確保されていれば、当面の生活に支障は出ないはずです。
その様な意味でも、3つの資金の仕分けが重要になってくるわけです。

 

金融資産の「棚卸し」と「仕分け」は定期的に

最近になって急激な物価上昇、また株式や為替等の相場の急変動など、私達の生活にも経済の変動が直接影響を及ぼすことが多くなってきました。また、少子高齢化対策によって、今後税金や社会保障費の増額も見込まれ、こうした状況が今後も続いていきそうです。

一方で、大企業を中心に、賃金の上昇などの動きもみられていますが、中小企業や自営業の方など、社会全体にその流れが及ぶには時間を要しそうです。

これからは手元の資金に無関心でいると、いつの間にか資金が目減りしていた!などということになりかねません。
見た目の資産は増えていても、物価の上昇ペースに追い付かなければ、実質的に資産は目減りしていることになります。

・定期的に資産の「棚卸し」する
・資金を「いま」「何か」「いつか」の3つに適切に「仕分け」する
・「いつか」の資金のうち、許容範囲を運用に回す

変動の激しい世の中、これからはこの手順で、定期的に手元の金融資産の状況を確認していくことをお勧めしたいと思います。

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