異次元の少子化対策は有効か~少子化・人口減社会に必要な長期的目線

先月、厚生労働省が発表した人口動態推計値で、2022年の出生数が80万人を割り込んだことがわかりました。
因みに死者数は約158万人となり、人口の自然減は約78万人と、こちらも過去最大となりました。
1年で徳島県・山梨県規模の県が1つ減るくらいの人口減少となり、いよいよ本格的な人口減社会が到来しています。

ところで、出生数約80万人で過去最低と言われても、ピンとこないかもしれません・・・
こう考えるとどうでしょう。例えば、総務省が2022年に発表した人口推計によると、日本で最も人数の多い年齢は72歳で、なんと206万5千人。その次が48歳で203万2千人、その次が73歳の202万4千人。
まさに団塊世代と団塊ジュニア世代と言われる世代の方々は、200万人を超えているんですね。
これらの年齢の方々がそれぞれ2022年の新生児の2.5倍もいるという事を考えると、80万人がいかに少ない数字か、実感できると思います。
それにしても日本で最も多い年齢が72歳(現在の73~74歳)とは・・・高齢化も進むはずです。

なお、国の将来推計では、出生数が80万人を下回るのは2034年頃と推計されていました。この推計よりも10年以上早く少子化が進んでいることになります。特にここ数年は新型コロナによる結婚・出産の減少が拍車をかけた様です。

 

異次元の少子化対策とは~打ち出される様々な対策

そのような状況を踏まえ、国も「異次元の少子化対策」として様々な対策を打ち出しています。

その対策の基本理念として、
・若い世代の所得増
・社会全体の構造や意識の改革
・すべての子育て世帯を切れ目なく支援
の3点を挙げています。

そして具体的には、主なものとして以下の様な政策が挙げられています。

〇106万円の壁への対処
一定の所得を超えると社会保険料等が発生して手取りが減少し、特にパートで働く主婦が労働時間を低く抑える傾向があったが、この制限をなくし、一定の金額を超えても手取り額が減少しない仕組みを導入する。

〇児童手当の拡充
15歳までの子供がいる世帯に、子供一人当たり1万円~1万5千円を支給している児童手当について、現行では、世帯年収960万円以上で5千円に減額、1200万円を超えると支給しないという所得制限があるが、この制限を撤廃する。
また、給付対象も18歳までの子供がいる世帯とする。子どもの多い世帯には、2人目以降の加算幅を手厚くする。

〇出産一時金の増額・健康保険の適用
出産一時金を2023年4月から50万円に増額(現在は42万円)することが決定している。
将来的には、健康保険を適用して公定価格とすることも検討する。

〇住居支援
昨今の物価高騰や住宅価格高騰を踏まえ、子育て世代に優先的に公営住宅や民間の空き家を貸し出す

〇育休を取得しやすくする環境整備
女性に育児の負担が集中する実態を変えるため、男性の育休取得率を21年度の14%から、30年度には85%まで上げることを目標とする。
その達成に向けて、男女とも育児休暇を取得した場合、その間の育児休業給付を67%から80%に上げて、社会保障費の免除と併せて実質収入の100%を確保する。

〇幼児教育の量、質の強化
保育士を増員した保育所への給付金を増額する

〇奨学金の減額返済制度
結婚や出産などライフイベントに応じて柔軟な返済を可能にする

また、すでに2019年10月より幼児教育費の無償化が、また2020年4月から私立高校の就学支援金の所得制限緩和などの対策がスタートしています。

実際ライフプラン相談の際も、保育園の負担が少なくなったので助かるという声を、よく聞くようになりました。
家計に直接影響してくる政策もあり、このあたりは是非進めていただきたいところですね。

こうして見ると、少子化対策についてはこれからも様々な施策が取られていくことになりそうです。
多くの予算も投入され、国としても政策の優先課題として位置づけられていることがわかります。

 

少子化の根本的な問題に目を向けると・・

もちろん、こうした少子化対策を進めることは大切な事だと思います。
複合的に対策を取ることで、時間はかかると思いますが、それなりに良い効果が見られるかもしれません。

しかし、今回打ち出された対策は、主に直近の経済対策となっています。
子供が欲しい、あるいは2人目・3人目が欲しいけれども経済的に難しいという家庭には、一定の効果があると思います。

一方で、この少子化についての根深い問題は、経済的な理由とは関係なく、そもそも子供を産みたくない、いらない、あるいは結婚をしないという人も増えているという現実です。
この、「欲しいけど産めない」人への対策と、「そもそも欲しくない」という人への対策は、全く異なります。

実際に、結婚しない、子供を欲しいと思わないという人は、増加傾向にあります。

厚生労働省が発表した、2020年の50歳時未婚率(以前は生涯未婚率と言いました)の推計値は、男性27%、女性18%となっています。これは、2000年頃と比較すると3倍近く増加しています。

また、都内のインターネット会社が2023年2月にZ世代の若者(18歳~25歳)にアンケートを取ったところ、約45%の人が、子供は欲しくないと回答したそうです。

その理由として、経済的な問題をあげた人は58%と多いものの、それ以外の理由を挙げた人も42%と、かなり高い水準でであったという事です。

お金以外の理由としては、
・育てる自信がない
・子供が好きではない
・自分の時間が制約される
・これからの日本の将来に期待できず、子供がかわいそう
・子供を育てにくい世の中である
・仕事との両立が大変そう
などと言った回答があったそうです。
また、最近のウクライナ情勢を反映してか、戦争が心配という意見もありました。

大学生なども含めた、比較的若い世代への調査であるため、もう少し年齢層が高いと結果は変わるかも知れませんが、それでも、意外にも多くの人が、経済的理由とは関係なく、子供は欲しくないと考えているようです。

確かに、以前の様に成長が見込まれる世の中では、結婚して子供を産んで育てることが自然な考え方だったのでしょう。
昭和の高度成長期などは、むしろ経済的には今よりも苦しかったかもしれませんが、それでも子供が3人以上いる家庭も多く、人口も増加していきました。
多くの人が将来は今よりも豊かで明るい未来になると信じていて、多くの子供が生まれてきたのだと思います。

一方で、子供を産んで育てる親が、自身の老後でさえ不安になっている様な今の状況では、更にその20~30年先を生きることになる子供が、安心して暮らしていける世の中になるとは、とても考えにくい状況です

この様な不安を抱えている人たちは、直近の経済的負担が少し減ったからといて、それなら安心して子供を産めるね!とはならないはずです。

このように、少子化の問題には、直近の経済的事情のほかに、自分の時間を優先する考え方、日本の将来への不安といった長期的な根深い問題が大きく影響しています。そしてこの状態から抜け出すのは、簡単な事ではありません。

 

少子高齢化・人口減少でも持続できる社会づくり

この様な現状を考えたとき、さらに長期的に取り組む対策として、少子高齢化・人口減少を前提としても、安心して暮らしていける社会づくりを目指していくことも必要ではないでしょうか。

例えば、もし、人口が減少する中でもそれなりの経済成長を見込むのであれば、生産性を高める工夫が必要です。
AIによる技術革新は進んでいますが、それでも日本では終身雇用制や様々な法規制などにより、なかなか生産効率は上がりません。こうした状況を改善しいかないと、労働力人口の減る中で、成長を続けていくのは難しそうです。

また、定年退職後の60代や70代の方でも、働きたいと考える人は多くいます。労働人口が減少する中で、大きな戦力です。既に働く高齢者でも年金が支給される仕組みが拡大されていますが、こうした高齢者が安心して働ける環境を整備することも更に必要です。

このような働き方の改革をすることで、人口減少・労働力不足でも持続できる社会を実現できます。
一部取り組みはスタートしていますが、更に広めていく必要がありそうです。

 

そもそも、経済成長は必要なのか

そしてもう1点、根本的に異なる考え方ですが、そもそも経済成長は必ず目指さなければならないのか?という点です。
最近は成長を追求する資本主義の弊害として、格差の拡大・気候変動等の社会課題が発生しています。
これを踏まえ、「脱成長社会」を提唱する専門家も増えています。私もこの考え方には賛成です。

成長前提の社会のシステムが変わらないまま、人口だけが減っていけば、様々な所にゆがみが生じます
それよりも、経済成長や利益の追求を止めて、もう少しスローな社会を構築していく、成長しなくても幸福でいられる社会を実現する。そのくらい認識を変えていかないと、止められない少子化、人口減少の中、誰もが安心して暮らしていける将来を作るのは難しいことだと思います。

もちろん、今すぐ資本主義から脱却するべきという事ではありません。
しかし、長時間労働、大量生産と大量廃棄、環境問題、格差の拡がり・・こうした犠牲を払ってまで経済成長することが本当に幸福な事なのでしょうか?
こうした点が、先ほどの自分の時間を優先する考え方、日本の将来への不安といった、子供を産まない理由につながっているような気もします
もう一度社会全体で考える時期に来ているのではないかと思います。

仮に人口増加や経済成長をしていなくても、安心して豊かな心で暮らしていける社会になったとすれば、必ずしも不幸な事ではないと思います。

そのためには、政治だけでなく、社会全体が脱成長に向けた取り組みをする事も必要になります。
そして私達各個人も、できるだけ社会に貢献する活動を続けていくなど、各自で意識を高めることも必要です。

もちろん、すぐに変えることはできない事ですが、徐々にでもそのような取り組みを進めることで、少子化問題も自然と落ち着いていくように思います。

 

少子化も未来永劫続くわけでもない

今後子供を産む世代の年齢毎の人数は、30代が130万人前後、20代が120万人前後、10台は100万人前後となっています。若い世代ほど減少している以上、今後少子化の流れは当面続くことが予想されます。
かといって、少子化は永遠に続くものでもなく、環境さえ整えば、一定の所で終息すると考えるのが自然でしょう。

仮に、数年後に年間出生数が60万人程度で下げ止まったとすれば、異常に人口の多い団塊世代と団塊ジュニアがいなくなる50年後くらいには、日本の人口は数千万人程度で落ち着く日が来るのかもしれません。
別に1億人規模の人口を維持しなければならないということはないと思います。

止まらない少子化。直近の対策ももちろん必要です。
一方で長期的な目線で見ると、少子化や人口減少をある程度受け入れた、必ずしも成長を前提としない社会を目指すことが、少子化問題の現実的な解決方法になるのかもしれません

 

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