やはりこれから金利は上昇!?住宅ローンの変動金利はどうなる?どうする?
コロナ禍やウクライナ危機で世の中が大きく変動する中、経済情勢も大きな転換期を迎えています。
先進諸国では物価上昇抑制のため、金融引締め政策を強化し、金利が上昇する流れになっています。
一方の日本では、大きな方針転換は無く、低金利政策が継続してきました。
しかしそんな日本でも、昨年12月に、日銀が長期金利の変動幅を、これまで0.25%を上限としていたものを0.5%とする政策変更がありました。
また、今年4月には、これまでのゼロ金利政策を推進してきた日銀の黒田総裁が任期満了で交代し、新たな総裁がどのような方針を取るのか、注目が集まっています。
金利の変動は経済に大きな影響を与えますが、私達の生活に直接影響するのは銀行の預金金利・借入金利等ですね。中でも住宅ローンを変動金利で借りている方、または借入を検討している方は、金利の動きが非常に気になっていると思います。
今回は、住宅ローンの変動金利を利用している、または利用を検討している場合、今後どのような準備しておけば良いのか、整理していきたいと思います。
そもそも固定金利と変動金利はどの程度違うのか
住宅ローンは様々な借入れ方法がありますが、中でも支払額に大きな影響を与えるのが、固定金利と変動金利の違いです。
固定金利は、借入期間中は金利が一定であり、月の返済額も変動する事はありません。
ライフプランを立てる上では、固定金利の方が、変動が無いので先々の計画も見通せて安心です。
一方で変動金利は、借入期間中に金利が変動するので、返済額も変動することになります。
現在の様な低金利の状況では、変動金利の方が低く設定されているため、毎月の返済額も、固定金利より変動金利の方が負担は少なくなります。
一例として、ある大手都市銀行で提示されている利率で、5000万円を35年間返済で融資を受けた場合の、元利均等型(毎月の返済額が一定)の返済額を、固定金利と変動金利で比較してみると、
固定金利:1.69% 月返済額157,788円 総支払額66,270,960円 利息16,270,960円
変動金利:0.375% 月返済額127,049円 総支払額53,360,580円 利息3,360,580円
この場合、月の返済額で、固定金利は3万円以上高くなっています。
固定金利は支払額は高いですが、この返済額が今後も変わりません。
そのため、借り換えや繰上げ返済をしない限り、総支払額や利息額は変わりません。
一方で、変動金利の返済額は低いですが、金利上昇により今後返済額が大幅に上昇する可能性があります。
したがって、変動金利の総支払額と利息額は、あまり現実的ではありません。
こうした点が、固定金利か変動金利かで借りる悩みどころとなるわけですね。
現状は変動金利で借り入れる人が大半
ところで、現在住宅ローンを借りている人は、どのように選んでいるのでしょうか?
2022年の住宅金融支援機構の調査によると、新たに住宅ローンを借り入れた人の73%は、変動金利を利用しているという事です。
また、新築の分譲マンションに関しては78%と、5人に4人近くが変動金利を利用しています。
やはり、昨今のマンション価格の高額化により、月の返済額を抑えることができる変動金利を利用している方が多いようです。
しかし変動金利は、先ほどもお伝えした通り、今後金利の上昇で、毎月の返済額も上昇する可能性が高いです。
それを踏まえて借り入れていれば良いですが、中には単に今の負担が少ないからと、安易に変動金利を選んでしまう方もいらっしゃるようです。
不動産業者さんは物件を多く販売したいでしょうし、金融機関はできるだけ多く融資をしたいという思惑があります。
したがって、購入者も利用しやすい、月返済額の少ない変動金利の提案をするケースが多いです。
中には、家賃並みの金額で戸建てが買えます!などと案内しているケースも見かけます。
購入する側も、新しい物件を見て、気分も高まってしまい、その程度の支払いなら、と安易に決断してしまいがちですが、こうしたケースは大体が変動金利で案内されています。
よく条件を確認して、検討することが必要です。
では、これからは変動金利で借りるのは避けた方が良いのでしょうか?
この点は意見の分かれるところではあります。
もちろん、将来のライフスタイルや各自の考え方にもよるので一概には言えません。
多少負担が大きくても、固定金利で将来変わらない安心を取るという考え方もあるでしょう。
一方で、以下の様な方々は、今後金利が上昇しても、支払い余力があるので変動金利でも問題ないでしょう。
・手元資金が十分にある(繰上返済を積極的に進める予定である)
・毎月の収入に対してローンの返済額が少ない
・学費など、今後大きな出費は見込まれない
では、そうでない方は変動金利を避けるべきかというと、私個人的には必ずしもそうは思いません。
変動金利は、少なくとも現在の負担額は低いので、可能であればその恩恵は受けた方が良いのではないかと考えています。
ただしその場合、以下の2点が重要になります。
「変動金利が動く基準・タイミングを知っておく」
「金利上昇でどの程度支払額が増加するか把握しておく」
という点です。以下ではこれらの点について、確認していきます。
変動金利が動く基準・タイミングを知っておく
現在は非常に金利の低い変動金利。
今後上昇が見込まれるわけですが、何を基準に、いつ変動するかを理解しておくことは大切です。
変動金利が動く基準・タイミングは、以下の通りになります。
変動金利の基準となる市場金利
住宅ローンの変動金利は、「短期プライムレート」と呼ばれる、金融機関が優良企業等に貸し出す金利のうち、最短期間(1年以内)の金利を基準に決定します。
また、この短期プライムレートは、日銀の設定する短期金利(当座預金の政策金利)が基準になっています。
この短期金利ですが、現在はマイナス0.1%と、マイナス状態が続いています。
因みに、冒頭に触れた金利変更のニュースは、長期金利(新発10年もの国債利回り)の変動幅です。
この影響で、住宅ローンの固定金利はやや上昇しました。
現在は短期金利が変動していないために、変動金利も非常に低い金利のまま推移しています。
金利の変動するタイミング
住宅ローン変動金利の基準となる短期プライムレートは、半年に1度(4月と10月)見直しされます。
そして実際の変動金利は、見直しの3か月後から適用されます。
市中金利の変動後、すぐに見直しされるわけではありません。
更に銀行によっては、激変緩和措置が設定されている場合があります。
これは、毎月の負担額を5年間は変更しない・引上げてもその幅は1.25倍以内とする規定です。
したがって、市場の金利が上がったからと、すぐローンの支払額が上昇するわけではないのです。
※激変緩和措置は、適用していない銀行もあります。
ただし、激変緩和措置は、利払いの免除ではありません。
金利の上昇が続くのに、激変緩和措置で変動が抑えられている場合、返済期間満了時に、未払いの利息の一括返済を求められるケースもあります。
このように、急激な変動は起きない仕組みですが、金利上昇で負担額が増える可能性は高いです。
市中金利は定期的に確認し、今後の見通しを立てておくと良いでしょう。
金利上昇でどの程度支払額が増加するか把握しておく
また、金利が上昇した時に、どの程度支払額が増加するのか、あらかじめ把握しておくと安心です。
以下のサイトでは、金利変動による支払額の変動を確認することができます。
「知るぽると」(金融広報中央委員会)
https://www.shiruporuto.jp/public/
上記サイト内で、
「暮らしのチェック」→「資金プラン」→しっかりシミュレーションの「借入返済額シミュレーション」
と進むと、シミュレーションの数字を入力する画面になります
このシミュレーションで、借入額・借入期間・金利を入力すると、月返済額・返済総額の目安が出ます。
端数まで正式な金額を確認するには、借入する金融機関のシミュレーションが必要になりますが、大体の返済額はこのサイトで確認する事ができます。
しかも、数年後に金利が上昇した場合なども、細かくシミュレーションすることも可能です。
以下に一例を紹介します。
5000万円を35年間・金利0.5%の変動金利・元利均等返済で借り入れ
1)金利変動がない場合
月返済額129,792円
総支払額54,512,640円 支払利息4,512,640円
2)5年後に金利が1%に上昇した場合
1~5年目月返済額129,792円
6~35年目月返済額139,531円
総支払額58,018,680円 支払利息8,018,680円
3)2)の状況で更に10年目に金利が1.5%に上昇した場合
1~5年目月返済額129,792円
6~10年目月返済額139,531円
11~35年目月返済額148,071 円
総支払額60,580,680円 支払利息10,580,680円
この様に、この場合は5年毎に0.5%の金利上昇が続くと、毎月返済額は1万円弱上昇することがわかります。
こうした見通しをあらかじめ立てておくことで、金利上昇時の家計への影響を確認しておくことができます。
この「知るぽると」のシミュレーションは非常にわかりやすく、どなたでも利用できます。
今借入中の方も新規借り入れを検討中の方も、あらかじめ、今後ローンの金利が上昇した場合のシミュレーションを確認しておくと良いと思います。
ペアローン・ミックスローンで借入れ金利の分散を
ここまで、低金利の今、変動金利のローンを利用する際に気を付ける点についてお伝えしました。
またこの他に、変動金利のリスクを減らす方法として、「ペアローン」や「ミックスローン」を活用する方法があります。
「ペアローン」は、共働き夫婦で、夫も妻も双方でローンを借り入れる方法です。
この場合、収入等に応じて夫・妻の借入額を個々に設定できます。
そして、一方を固定金利・一方を変動金利として、金利上昇のリスクを減らすことが可能です。
繰上げ返済をする際も、金利上昇が見込まれるから変動金利の方から繰上げよう、といった利用が可能です。
また、ペアローンを利用することで、住宅ローン控除を双方が受けることができるというメリットもあります。
借入額も、2人分の枠を利用できるので、単独のローンより高額の借り入れが可能です。
ただし、融資枠が増える分、無理な購入計画を立てるケースも見受けられます。
ペアローンはメリットも多いですが、利用の際は、ライフプランを確認し慎重な検討が必要です。
また、最近は1人で2本の住宅ローンを借りる「ミックスローン」という方法も増えてきました。
こちらも1本を固定金利、1本を変動金利とすることで、金利上昇リスクを抑えることが可能です。
融資の際の手数料は増えますが、その分リスクも減るので、検討に値する方法だと思います。
こうしたペアローン・ミックスローンの活用で、金利上昇による影響を最小限にするのも効果的です。
変動金利は今後どうなるのか?
ここまで住宅ローンの変動金利について確認してきました。
特に最近は、固定金利が少しずつ上昇する一方、変動金利は変わらない状況が続いています。
そのため、変動金利の負担額の少なさが際立つ状況が続くと考えられます。
この変動金利ですが、今後も数年間は低金利の状況が続くと考えられます。
それは、ローン利用者の7割を超える多くの方が利用しているため、金利の上昇は多くの方の負担を増やすことになり、景気に冷や水を浴びせる結果になりかねないからです。
また、住宅価格も高騰する中、新規の住宅購入者も更に減少してしまう可能性があります。
景気への影響を考えると、当面は低金利の状況が続くと考えられます。
また仮に金利が上昇したとしても、先ほどシミュレーションした1~2%程度の範囲にとどまる可能性が高いと思います。
仮に、かつての様な、5%・6%・・という利率になるとすれば、その時は景気も回復し、私たちの収入も上昇するという前提が必要かと思います。短期金利だけ上がっていく状況は、経済の仕組み上考えにくいです。
仮に先ほどの条件で5000万円を0.5%で借りるのと5%で借りるのでは、総支払額は倍近い差が出てきます。
(0.5%で35年→月返済額129,792円 5%で35年→月返済額252,343円)
しかしその場合は、それが受け入れられる社会の環境になっていると考えるのが自然です。
このように、極端な変動を恐れる必要はありませんが、それでも徐々に金利が上昇する可能性は高いでしょう。
その様な状況の中で、変動金利を利用する際には、
・金利の動く基準、タイミングを知っておく
・金利変動で負担がどの程度変わるのか確認しておく
といった点を踏まえておくことが必要です。
また、これから借り入れる場合は、ペアローン・ミックスローンを活用して、リスクを減らす工夫をすると良いでしょう。
家計の中でも大きな負担を占める住宅ローン。
今回は変動金利にスポットを当てましたが、そのほかにも住宅ローン控除・繰上げ返済など、負担を減らす方法は様々です。
もし判断に迷う場合は、ご家庭の状況を踏まえた適切な返済方法を、一緒に検討させていただきます。どうぞお気軽にお声がけください。
※文中に示したシミュレーションは、金融広報委員会「しるぽると」しっかりシミュレーションの結果です。金融機関によって端数など細かい点は異なるので目安としてご参照ください。
※今後の金利の見通しなどのコメントは個人的な見解です。