高額療養費制度の自己負担限度額引き上げが検討されています

今年に入り、高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げをめぐる議論が活発化していますね。

高額療養費制度は、健康保険の制度で、医療費の負担金が一定の自己負担分を超えた場合、
その超えた部分が払い戻される制度です。
現在は以下の通り、所得に応じて自己負担限度額が設定されています。

Book1

↑ 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」より

一例を言うと、例えば年収500万円の方の場合、自己負担限度額は、
80,100円+(医療費-267,100円)X1% となっています。

つまり、仮に医療費が50万円かかった場合、
高額療養費制度がない場合は、自己負担額は3割負担の15万円となりますが、
高額療養費制度により、医療費の上限額が¥82,429、
約8.2万円で抑えられることになるわけです。

更に、長期間療養が続いて、12か月以内に3回以上、この上限に達した場合は、
4回目以降は「多数回該当」として、上限額が月額¥44,400になる制度もあります。

このように、高額療養費制度により医療費の自己負担額は大幅に抑えられる仕組みになっています。

厚労省から出された自己負担額引き上げ案

この高額療養費制度について、今年8月から段階的に見直され、自己負担限度額が上がる案が検討されています。
令和7年8月、8年8月、9年8月と段階的に変更され、8年8月からは年収区分も細かくなります。

高額療養費制度の見直しについて(厚労省HPより)

※こちらは決定した内容ではありませんが、厚生労働省のHPにも掲載されているのでご紹介します

具体的には、年収500万円の方が先ほどの事例同様、50万円の治療を受けた場合、
令和7年8月からは、90,260円、多数回該当は、48,900円  となります。
自己負担額は約8.2万円が約9.0万円となるので、10%近く上昇することになります。

また、更に令和8年には、年収区分が細かく設定され、それ以降の上昇幅は年収により変わってきます

年収500万円の方の限度額は、令和7年改正後、令和8年、9年は令和7年と変更ありません。

一方で、年収区分上、上昇幅の大きい年収700万円の方は、同じく50万円の治療を受けた場合、
令和7年8月から、90,260円、多数回該当は、48,900円 と、年収500万円の方と変わりませんが、
令和8年8月からは、114,620円、多数回該当は、63,000円、
令和9年8月からは、138,980円、多数回該当は、76,800円
となり、年収によっては、令和9年8月以降は、現状から60%以上も上昇となることもあるのです。

高額療養費制度は長期療養者のセイフティネット

この修正案が出ると、がん患者の団体からは大反対の声が上がりました。
そこで国は、少なくとも多数回該当の上限額については、現状のまま据え置くという方針を出しています。

早々の方針転換ですが、このあたりの動きは、もう少し慎重にできなかったものでしょうか?
医療費がひっ迫して制度を修正する必要がある点は、誰もが認識をしていると思います。
しかし、医療費の占める割合が高いからと言って、安易に高額療養費の制度改定をするのは、机上の論理でしかありません。

障害者には障害年金、要介護者には介護保険制度など、それぞれセイフティネットが整備されています。
高額療養費制度は、重度の病気を患う人のセイフティネットです。
この制度で希望する医療を受けて、生きる希望を持っている人、社会に復帰できたという人も多いはずです。
多くの人の命をつないでいる制度でもあり、もう少し慎重な検討ができなかったものかと、残念に思います

今回の議論をきっかけに、制度を知り、自分の場合をイメージする

高額療養費制度の存在は知っていても、自分の場合、どの程度の限度額となるのか、
あるいはどの程度その恩恵を受けることができるのか、健康であればなおさら、
具体的に考える機会は少ないと思います。

中には、高額療養費があるから医療費の心配はないとか、医療保険に加入する必要は
無いと言うもいます。
もちろん、判断は自由です。
しかし、それは制度の内容をよく理解したうえで、判断すべき問題だと思います。

高額療養費制度の改定の内容は、まだ正式には決定していません
しかし、いずれにしても何らかの制度改定はされるものと思います。

改定の内容が決まった段階で、自分の場合どの程度の限度額になるのか、ぜひ一度確認してみましょう
そして、高額療養費はあくまで健康保険の制度です。
実際の療養の際は、健康保険が適用できない治療や、入院時の差額ベッド代など、その他に費用も発生するケースも多いです。

自分が大病を患った時をイメージして、どの程度の費用が発生するのか、
収入はどの程度減少するのか、それにはどの程度備えておくと良いのか。
今回の高額療養費制度の改定内容も参考に、ぜひ確認をしてみてください。

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