税制改正で話題の生前贈与・・・贈与を考えるときに知っておきたいこと

毎年1月は相続に関するご相談が増えてきます。
年末年始に家族で集まって話をする機会が増えるからでしょうか。
これまでコロナ禍でなかなか里帰りできなかった方も多いと思います。
その間、親御さんの体力が落ちてきたとか、実家の修繕が必要になったという話も良く聞きます。
まだ親御さんがお元気なうちに、相続など将来の事を話し合っておくのはとても大切な事ですね。

その様な中、今年特に目立ったのが、
「親が贈与をしたいと言っているが、どうしたら良いか」
というご相談です。

贈与に関しては、昨年末に制度変更が決定したので、その影響もあるのでしょうか?
雑誌などでも「生前贈与は今のうち!」といった、やや煽り気味の記事も見かけます。

生前贈与については、多くの方が、「年間110万円までできる」と認識をされているようです。
しかし、テレビや週刊誌などで断片的に得た情報を見て、勘違いしている事も多いようです。
中には、贈与をするような状況ではない人も・・・

今回は、生前贈与で気を付けたいことについて、まとめてみたいと思います。

 

「年間110万円までできる!?」
‥相続税対策として生前贈与をする意味は?

多くの方が知っているこの110万円というのは、年間に非課税で贈与できる金額のことです。
「贈与は年間110万円までできる」というよりは、正確には
「110万円を超えて贈与すると、贈与税がかかる」という事になります。

そしてもうひとつ、この税金は贈与を受けた側が基準です
子供が両親から110万円ずつ贈与を受けたら合計220万円で、超えた110万円は課税されます。
一方で贈与する側は、110万円を2人の子供に、合計220万円贈与しても課税対象ではありません。
そもそも、贈与税を支払うのはもらった側なので、そういう事になるわけですね。

相続税対策としての生前贈与は、生きているうちに財産を贈与して、相続(死亡)時の財産を減らすことで、相続税を減らす対策を指します。
例えば、1億円の相続財産がある場合も、2人の子供に年間110万円ずつ、10年間贈与し続けると、2200万円財産を減らすことができます。
この対策で、法定相続人が子供2人のみで財産が現金の場合、支払う相続税の総額を300万円以上も減らすことができるので、非常に有効な対策となるわけです。

 

相続税対策は早めにと言われるワケ
~相続直前の贈与は相続財産とみなされる!

このように、相続税対策として非常に有効な年間110万円贈与ですが、注意点があります。
それは、相続前数年間の贈与については、相続財産に加算されてしまうという事です。

現在は、相続発生から過去3年間の贈与については、相続財産とみなすとされています。
例えば、2023年1月1日に亡くなられた方は、2020年1月1日~2022年12月31日までの3年の間に贈与した財産は相続財産とみなされているわけです。(相続財産に持ち戻されると言う事もあります)

そしてこの規定が2024年に変更され、相続発生から過去7年間の贈与を相続財産とみなす事になりました
ただしこの変更は、いきなり来年から7年間となるわけではありません。
2027年まではこれまで同様過去3年間・2028年は4年間・2029年は5年間・2030年は6年間と順次長くなり、2031年に完全に7年間となります。
なので、既に対策を取っていた方が、今から4~6年前の贈与は相続税になるのか!という事ではないのでご安心ください。

ただそれでも、近いうちに相続財産とみなされる期間が長くなり、相続対策をしにくくなることは事実です。
実際、90代の方などは、生前贈与で相続税対策をするのは現実的に難しいでしょう。
最近特に相続対策は早めのスタートが大切と盛んに言われるのは、この規定変更の影響が大きいです。

 

こんな方法では贈与とみなされない!

この年間110万円贈与。簡単で非常に有効な相続税対策なので、積極的に取り組む方も多いです。

しかし中には、贈与が成立していないケースもよく見かけます。
その代表例は、名義預金です。

贈与するこどもや孫名義の預金口座を作り、そこにお金を振り込んでいる方がいらっしゃいます。
しかしその通帳を、贈与した(あげた)本人が管理しているのでは、贈与した事にはなりません。
贈与は、贈与した側とされた側が、双方とも「あげた」「もらった」という認識をしていることが成立の条件です。
そして、原則もらった側が自由に使える状態でないと、贈与は成立したことになりません。

なお、110万円以上贈与して、贈与税を支払えば贈与が成立すると考えている方もいらっしゃいます。
例えば、120万円贈与した場合の贈与税は1万円を申告して贈与の証拠を残すというケースです。

しかし、贈与契約は民法の契約であり、贈与税は相続税法の規定です
贈与税の申告をしたからと言って、民法の規定の贈与が成立するかは別問題です。
あくまで、双方の合意で贈与が成立するという原則にのっとって、贈与をすることが大切です。

先ほどの様に、贈与した財産は完全に贈与された人が管理できる状態であることがポイントです。
(贈与された側が未成年の場合で、その親が管理するというケースも含みます)
そして、その都度贈与契約書などを作成しておくと確実でしょう。

このように、贈与とは言えない状態で贈与をしたと思い込んでいる方も多いようです。
贈与はその名の通り、相手に財産を「贈る」「与える」行為です。
子供が無駄遣いするからとか、学費に使ってもらいたいとか、関係ありません。
贈与の成立には、あくまで双方が、「あげた」「もらった」と共通の認識であることが必要です。

 

そもそも、相続税はそんなにかかるのか?

さて、そんな相続税対策で有効な生前贈与。
ご相談を聞いていると、さほど相続対策は必要ないなというケースも多いです。

この場合パターンが2つあります。
一つは、相続税がどのくらいの財産から発生するか把握されていないケース。 

相続税の計算は、非常に複雑で、相続人の数や相続する財産の評価方法によっても大きく異なります。
基本的には、3000万円+(600万円X法定相続人の人数)までの基礎控除額が認められています。
つまり、仮に法定相続人が配偶者と子供二人であれば、相続財産4800万円までは相続税は課税されません。

また、配偶者への相続分は、法定相続分または1億6000万円まで非課税となる特例があります。
なお、親から相続した土地に引き続き子供が住み続ける場合、その土地の評価が8割減額される「小規模宅地の特例」という規定もあります。
これらの特例を適用することで、相続税が大幅に減額されるか、ゼロになるケースも多いです。
(ただし、特例を適用するには相続税の申告は必要です)

相続税が課税される相続は、令和2年の国税庁の統計によると、全国平均で8.8%とのことです。
土地の評価額の高い首都圏などはもう少し割合は高いですが、それでも、大半の相続では相続税は発生しません。
まずは財産状況を確認し、本当に相続税対策が必要なのかを確認する事が第一です。

そしてもう一つは、相続税など関係なく、ただ亡くなる前に子や孫に財産を渡しておきたい、というケース
こちらは、年金収入が十分ある方に多いようです。
つい先日も、地方の実家に住む80歳前後の両親のいる方からご相談がありました。
現在は年金で十分生計が成り立っているので、残る貯金を今のうちに孫に渡せないものか、という内容でした。

その方の保有する財産は、実家の土地建物の他に、預金が1000万円程度とのことでした。
実家も地方にあり、建物も築30年近い普通の戸建て住宅です。
他に大きな資産もないとのことで、相続税が発生しそうにはありません。

もちろん、年間110万円の範囲で、贈与が成立する方法で贈与すれば、非課税で贈与可能です。
しかしこの方は、仮に大病を患った場合の治療費とか、介護施設の入所費用など、将来必要となる費用の準備が、十分とは言えません。仮に健康で過ごしたとしても、築年数を経過した住宅のメンテナンス費用等もかかるでしょう。

ご自身はまだ元気だし、いざとなったら子供に面倒を見てもらう、などと言っているようです。
この様なケースでは、手元に資金を残しておいた方が良いでしょう。
それでもどうしてもという事であれば、逆に先ほどの名義預金でもして、孫のための預金をしておけばよいかも知れません。

贈与をし過ぎたことで、ご自身が将来生きていくための資金が不足してしまうというケースも見られます

相続税対策が大切とか、贈与ができなくなるなどと世間では騒がれています。
しかし、一般の家庭ではさほど大きな問題に発展する事は少ないです。
まずは資産状況を確認し、相続税対策が必要なのか、あるいは自身が今後生きていく上での費用は不足しないのか、よく確認してから検討に入ると良いでしょう。

 

生前贈与が本当に有効か確認。やるならば正しい方法で

最近は、相続や終活などがブームと言われるほど、様々なメディアでも取り上げられています。
しかし、相続対策、特に相続税の対策は様々な仕組みや法律が入り乱れており、非常に複雑です。
そして最もやっかいなのは、いつ亡くなるかわからない上に、亡くなった時点の法律が適用されるという事です。

生前贈与は、様々な相続対策の中でも、相続税を減らすのに有効な方法です。
しかも、比較的簡単に実行することができます。
それだけに、誤った理解で進めている方も多いです。

相続税対策としての生前贈与を検討する際には、
・相続税がどの程度発生する可能性があるか
・自身のライフプランと家族の状況を考えて、生前贈与が有効な対策になるか
・正しい生前贈与の方法はどのような方法か
この手順で、FPや税理士など専門家を交えながら検討されることをお勧めします。

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