世帯年収1000万超・貯金1000万家族の資産寿命
年収1000万とか、貯蓄1000万円というと、ゆとりある生活が送れるし、先々も安心といったイメージを抱くのではないでしょうか?
しかし、年収でも貯蓄でも1000万円を超える方が、この先安心かというと、必ずしもそうではありません。むしろ将来は厳しい老後が待ち受けているというケースもあり得るのです。
先日ご相談のあった世帯年収1200万円・貯蓄1000万円の方の事例をもとに、今回は資産寿命について考えていきたいと思います。
資産寿命という言葉を聞いたことがありますか?
資産寿命とは、手元の資産が底をついて生活が経済的に成り立たなくなる時期をさします。
ただし、「資産」をどう捉えるかによって解釈は異なります。
不動産やすべての財産を含めた資産と考えれば、住む家も金融資産も失った時が資産寿命を迎えた時という事になります。
ある程度の年金を受け取ることができなければ、生活が立ち行かなくなってしまうでしょう。
一方で、金融資産が資産寿命を迎えても、別に住居など不動産等の資産があれば、日常生活費を年金で賄う事によって暮らすことが出来るかもしれません。その場合は住む家もなく路頭に迷うという事はないでしょう。
このように、資産寿命と一口に言っても、とらえ方は様々ですが、一般的に金融資産が無くなれば生活はかなり困窮しますので、後者の様に、金融資産が枯渇した時点を資産寿命と考えるのが一般的かと思います。
私たちは資産寿命が自身の寿命より長くなるよう、生活を設計していく必要があります。
しかし、自分の寿命は何歳かわからないので、最大限長く生きる期間、現在でいえば100歳近くかそれ以上まで、資産寿命が続くよう計画していくという考え方が必要になります。
そう考えると気が重くなるかもしれませんが、一方で、資産寿命は健康寿命や平均寿命よりもコントロールしやすいものです。
普段から意識して資産寿命を延ばす努力をしていれば、はっきりとその成果を確認する事ができます。
よくある1000万円世帯の現状
さて、話は戻りまして、今回ご相談事例のご家庭のプロフィールは以下の通りとなります。
Aさんご家族(2人とも45歳の夫婦・子供が10歳の女の子・8歳の男の子の4人家族)
収入:
年収:夫約800万円・妻約400万円の共働き(手取りは880万円程度)
退職金は60歳で夫2000万円・妻800万円程度。
その後夫は年収400万円・妻は年収100万円程度で65歳まで働く予定。
65歳以降受け取れる年金は夫が年220万円・妻が年160万円
支出:
子供は2人とも現在公立小学校通学。2人とも中学から私立に通わせる予定。
大学は上の子は私立文系・下の子は私立理系の予定。
生活費は月約30万円。
自家用車(300万円)あり、約7年に1回買い替え。
年に1回里帰りを兼ねて旅行。1回30万円。
月約3万円の保険に加入。
都内のマンションに居住。40歳で4000万円を夫名義で借入。毎月約10.9万円返済の35年ローン。
このAさん、共働きで収入も税込みとはいえ1000万を超え、一見ゆとりありそうな家庭ですよね。
生活費や住宅ローンがやや高めですが、現状生計を立てていくのには、問題なさそうです。
さてこのAさん、このまま生活してお子様が中学から私立に進学すると、いつ頃資産寿命を迎えることになるでしょうか?
1000万家庭も、平均寿命の前に、資産寿命を迎えます
このAさん、キャッシュフロー表で年毎の収支見込みを計算していきました。
すると、この生活水準を続けていった場合、資産寿命は81歳の手前になることがわかりました。
つまり、平均寿命の手前で資産寿命を迎えてしまいます。
もちろん、この頃にはローンを完済して住む家は確保されているので、路頭に迷う事はありません。
しかし、年金収入で管理費など払いながら暮らしてくのは、これまでの生活とはかけ離れたものになるでしょう。
また、預貯金もなければ生活にゆとりもありません。
実はこのように一見裕福そうに見える家庭こそ、資産寿命の途切れる危険性を多くはらんでいるのです。
以下にどのようなことが原因になるか見ていきましょう。
マンションのローン返済額と借入時期
この夫婦は5年前に4000万円の35年ローンを組みました。返済額は月10.9万円です。
当面返済していく分には問題のない額です。ただしローン開始が40歳と遅めのため、60歳になってもまだ15年ローンが残ってしまいます。
また、最近の様に、コロナの影響で在宅勤務が広がり、残業代が減ったり、業績不振からボーナスが減ったりすると、返済が行き詰まるリスクがあります。
Aさんはご主人のみローンを組んでいましたが、共働きの場合、夫婦でペアローンを組むこともあります。そうすると更に高い借入をしているご家庭もあり、その場合はさらにリスクが高まります。
また、高級なマンションほど管理費や修繕積立金が高く、合計で月に3万円以上といったところも珍しくありません。そうなると住宅関連につき約14万円もの出費が継続することになります。住居関連費は長期間にわたる固定費となるため、資産寿命に大きな影響を与えます。
もちろんマンションは将来資産として残るのですが、手元に資金が残らなければ、年金暮らしで高級マンションに住んでも、理想の暮らしとは言えませんよね。そして30年以上先にはマンションも古くなり、修繕等の費用がかさむリスクも考えられます。
生活レベルを下げることはできない
Aさんの家は日常生活費が30万円です。これは平均よりやや多い金額ですが、2人のお子様がいる上に共働きです。忙しさのあまり、つい外食が増えたり、またお子様の習い事費用も増えたりしてくるので、やむを得ないかも知れません。
問題は、そのような生活に慣れると、なかなか節約をするのは難しくなるということです。
特に高級マンションに住んでいる場合などは周囲の住民の目も気になり、衣服や身の回り品も良い物を選びがちです。また、車も同様に、これまで乗っていた車からグレードを下げるのは抵抗があります。この相談者ではありませんが、私が以前訪問したお客様のマンションも、都心ではありませんが、最近発売の新しいマンションで、駐車場には輸入車やレクサス・アルファードなどの高級車が並んでいました。
Aさんのご家庭含め、多くの共働き家庭は貯金もあります。お子様が小学校のうちは、家計収支は黒字を確保できます。しかし、お子様が大きくなるにつれて、出費は瞬く間に増えてきますので、同じ生活レベルを続けていては、黒字を確保し続けるとこはできません。
お友達も行くから、私立中学に進学
Aさんも当初は2人のお子様を私立中学に進学させるとは思っていなかった様です。しかし5年前に越してきたマンションの多くの子が私立に進学するという事で、Aさんご夫妻も私立進学を検討し始めたそうです。
文部科学省の統計によると、公立の場合の学費は中学3年間で144万円・高校3年間で135万円なのに対し、私立の場合は中学3年間で398万円・高校3年間で312万円となります。子供1につき約430万円・2人では860万円の負担増となります。
これも預貯金があるので払っていけなくはないのですが、将来の資産寿命に大きな影響を与えます。また私立の場合は海外留学や部活動なども盛んで、特別出費が多くなる傾向にあります。
Aさんのご家庭で資産寿命を縮める最大の要因は、このお子様の中学進学と言っても良いでしょう。
もちろんお子様の事を考えて、満足のいく教育を受けてもらう事は最優先事項かもしれません。しかしそのためには、家計上の計画もしっかり立てたうえで検討することが大切になります。
共働きの方こそライフプランの確認を
最近は夫婦共に正社員として働くご家庭も多くなりました。共働きの場合は収入も多い分、世帯の生活費は相対的に高くなります。夫婦のお小遣いも多いようです。しかしそれは、現状はゆとりの資金があり、家計の収入もプラスが続いているからできることです。
共働きの方は忙しいので、家計管理も後回しになりがちです。しかし、子供が私立通学に進学したりするのに、満足に給与が上がらないという事になると、たちまち赤字家計に突入します。忙しい共働きの方こそ、今後のライフプランを様々な角度から検討して、資産寿命の枯渇しない計画を立てることが大切です。
他の家庭の様子を聞くことはなかなか難しいでしょう。
周囲のお友達に聞いても正直に答えてくれるものでもありません。ウチも大変よ~などと言いつつ、せっせと節約して着実に貯金している家庭も多いものです。
ちなみにこのAさん、中学からの私立進学はあきらめませんでした。まず家計の収支を確認しながら、生活費の無駄を切り詰め、その分毎月一定額を貯蓄と運用で学費を貯蓄していく計画をスタートしました。そして1年後の成果を見て、再度計画を検討することになりました。
Aさんは手遅れになる前に対策をとることができました。このように、一見ゆとりのありそうな共働き世帯こそ、あらかじめFPに相談して、ライフプランをシミュレーションした後に、キャッシュフロー表を作成して、無理のない計画を立てておくことが大切になると思います。