「退職金で住宅ローン一括返済」を考える
今日は定年退職金と住宅ローンのお話です。
もうすぐ退職を迎えるという方とのご相談で、退職金の使いみちを伺うと、住宅ローンの残債のある方の多くが「住宅ローンを返済して、残りで・・・」というお話になります。
確かに、住宅ローンを1日も早く返済してスッキリしたいという気持ちは、わからないでもありません。
しかしこの住宅ローン、一括返済することが本当に将来のライフプラン上メリットのある事でしょうか?
住宅ローンを一括返済はお得なの?
昨今の低金利が続く情勢の中、住宅ローン金利は低い利率で推移しており、優遇金利を適用できる方などは変動金利で1%を切る貸付利率であるケースも多くなっています。
このような低金利で住宅ローンを返済している方は、必ずしも住宅ローンを一括返済することが有利とは限りません。
具体的に見ていきましょう。
住宅ローンの一括返済の場合、例えば、60歳でローンが残り10年間・残債が1000万円、1%の利率で返済していた場合、70歳まで返済する時の月の返済額は約87600円となります。
このローンを、利率が変動しないと仮定して、今後10年間で返済した時の総支払額は約1051万2000円で、51万2000円が利息分の支払いとなります。退職金で一括返済をすれば、1000万円で済むので、確かに、この利息分を支払わなくて済むのは大きなメリットと言えるでしょう。
一方で、この一括返済しようとした1000万円を、運用していればどのようになるでしょう。
手数料の安いネット証券会社に口座を開き、株式型のインデックス投資信託を中心に、分散して資産運用をします。
仮に年平均2%(税引き後1.6%)で運用できれば約1172.0万円、年平均3%程度(税引き後2.4%)の運用が出来たとすれば、約1267.7万円となります。低く見積もって、年平均1%(税引き後0.8%)としても、約1082.9万円となります。
もちろん、借入金利や運用結果によって異なりますが、運用することで住宅ローン一括返済よりもより大きなメリットを得られる可能性があるわけです。
運用に回して大丈夫?
運用というと、元本割れする可能性があるのではないか、あるいはお金が戻ってこないのではないか、と不安に思う方もいらっしゃいます。特に50代後半など、退職間近の世代の方などは、運用においてメリットを得られた経験をしたことが少ないので、そのように思っていらっしゃる方も多いようです。
しかし、運用のやり方さえ間違えなければ、数年間~十数年間といった期間があれば、高い可能性で成果を上げることが出来ます。もちろん、今回のコロナショックの時などは、一時的に元本割れする様なリスクもあります。
先ほど2%・3%といった運用結果の事例を示しましたが、毎年着実に2%・3%といった利率が確保できるわけではありません。ある年はマイナスになることもあり、またある時は5%、6%といった運用結果が得られる場合もあるのです。
長期間で投資することで、リスクは軽減されていきます。先ほどは10年間で計算しましたが、必ずしも10年で運用を打ち切るというものでもありません。10年後にかける別のxxxショックのさなかなのであれば、更に保有し続ければ良いという事になります。
お金を手元に置いておくこと
住宅ローンを完済することは、毎月の負担は減るものの、手元の現金は減る事になります。
不透明な世の中になり、社会情勢の変化も今後考えられる中で、手元に流動性のある資金を置いておくことは大切です。
流動性とは、引き出したらすぐに現金化できる資金です。60歳前後は、お子様の学費が想定外にかかったり、親御さんが介護状態になったり、想定外の負担の生じることもある時期です。不要不急に使える資金を手元に確保しておく方が安心です。
また、住宅ローンには団体信用生命保険が付帯されています。このため、もし万一亡くなってしまった場合、その後ローンの負担が免除になるので、このメリットを手放す理由はありません。
退職金は人生の中で一度に受け取れる金額としては最大級のものです。
その使い方一つ誤る事で、長期的には数十万・数百万円と差が開くことがあり、資産寿命に大きな影響を及ぼすことになります。
「退職金で住宅ローンの完済」という固定観念を捨てて、他に良い選択肢は無いか、ご自身の状況を確認しながら、よりメリットのある方法を選択されることをお勧めします。