人間の自然な反応「損をするのはイヤ!」を乗り越える
損をするのはイヤですね・・
人間は、損失を嫌うという本能が働いています。
1万円得した喜びより、1万円損したダメージの方が後を引くというと、何となくわかるような気がするでしょうか?
例えば、コインを投げて表が出たら1万円もらえるというゲームがあったら、喜んで参加しませんか?
ところが、表が出たら3万円もらえるが、裏が出たら1万円支払うというゲームは、どうでしょう?少し考えてしまいます。
コインの表と裏が出る確率は半々なので、期待値(このゲームを数回やった結果得られる利益の平均値)を考えると、後者の方が高いのですが、やはり1万円損失する可能性があることに敏感に反応する、という傾向がある様です。
これまでの負担を無にしたくない!
同様に、これまでの出費を無駄にしたくない、という本能が働くこともよくあります。
例えば、とある会社が、既にこれまで数億円かけたが、なかなか実績の上がらないプロジェクトがあったとします。このような時、思い切ってこのプロジェクトを中止しようという決断をするのは難しいものです。これは、既に大きな費用負担をしているので、その損失を確定させたくない、という考えが働いているからです。しかし、過去の事など考えず、これから先の事だけを考えれば、実績の上がらないプロジェクトを中止して、新しい取り組みを始めた方が良いはずです。
このように、すでにこれまでに支払ってきた負担を「サンクコスト」と言います。このサンクコストによって正しい判断が出来なくなるケースは、様々な場面で起きています。
国家プロジェクトでも起きています
かつてコンコルドという超音速の旅客機が開発されて一部実用化されていましたが、全く採算が合わないにもかかわらず、開発が続けられ、結局大変な赤字額をだして中止されたという事がありました。この様に、過去の負担にとらわれて決断を誤らせる事例は「コンコルドの誤謬(ごびゅう)」とも言われています。
新型コロナウイルスの影響が出始めた3月下旬頃、東京オリンピックの中止・延期といった決断がなかなかできなかったのも、少なからずサンクコストが影響していたと思います。恐らく来年の開催可否の判断も、中止という決断をするとしたら、このサンクコストの問題を乗り越えなければならないので、更に大きな決断となるでしょう。もちろん、オリンピックの場合は採算だけの問題ではありませんが、国家を揺るがす大事業の判断まで、サンクコストに捉われてしまうことがあるのです。
家計相談でも起きています
先日家計相談にいらっしゃった方は、毎月赤字が出て家計のやり繰りが大変だ、というご相談でした。家計を調べてみると、収入の2割程が貯蓄型の保険料になっていて、これが家計を圧迫していることがわかりました。この契約を解約することをお勧めしたら、これは既に数万円も払ってきたのでもったいない、老後の貯蓄になるというお話をされました。この方はこれを払い続けたとしても、数年間家計の赤字が続き、結局解約せざるを得ない結果が見えています。サンクコストにとらわれている一つの例だと思います。
株式の損切りが出来ないというのもこのサンクコストが影響しています。もちろん、基本的に株式は長期保有するのが望ましいと思いますが、自分の判断通りに行かない場合は売却するという判断が時には必要です。しかし、この株式に投資したという判断は誤りだったと確定させたくない本能が働いて、なかなか売却という決断に至らず、その間に損失が拡大してしまうという結果になってしまいます。
特に今は変化する時代~過去捉われず、みらいを見据えた判断を
このように、家計の改善や資産運用を検討する際にも、このサンクコストの存在が影響を与えます。
国家プロジェクトから身近な家計の問題まで、サンクコストの問題はあらゆるところに存在するのです。
国家プロジェクトに関しては、政治家や大きな会社の偉い方に判断を委ねるしかありませんが、家計の問題は自分自身の考え方ひとつで変えることが出来る問題です。これまでに投入した費用や労力はあくまで過去のものです。新型コロナの問題で経済情勢や世の中の価値観の変化も起きています。闇雲にコロコロ判断を変えるのも良くありませんが、今行っている事は果たしてみらいにメリットを生み出すのか、現在を基準にしてじっくり考えて、過去に捉われない思い切った判断をすることも、今後必要な場面が増えてくるのではないかと思います。