老後2000万円から4000万円!?に思考停止しないこと
以前「老後2000万円問題」が話題になりましたね。
これは2019年に金融庁が出した、金融審査会・市場ワーキンググループ報告書がきっかけでした。
まだ記憶に新しいですが、あれからもう5年も経つんですね。月日の経過は早いものです。
改めてこの内容のポイントを確認してみると、
夫65歳以上・妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯は、平均支出263,718円 平均収入209,198円と報告されています。
それにより、「毎月の不足額の平均は約5万円であり、今後20~30年の人生があるとすれ ば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」とされています。
そこで、老後2000万円不足する!という点がクローズアップされ、マスコミが大きく報道を始めました。
当時の麻生金融担当大臣が報告書を受け取らないという騒ぎにもなりましたね。
いずれにしても、老後資金準備の必要性を認識してもらうという意味では、十分な効果があったと思います。
※金融審査会の報告書というと難しそうですが、内容は一般の方でも十分理解できるものです。
間違っていることが書いてあるわけではないので、参考までにPDFを添付しておきます。
今は4000万円必要というニュースが・・・
なぜ今頃5年前の話題を持ち出したかというと、テレビのワイドショーで流れた「老後資金今は4000万円必要」というニュースを見たからです。
このニュースを見返してみたところ、
2023年の消費者物価指数は3.8%上昇した
→仮に3.5%程度の物価上昇が20年間続いたら、20年後にはモノの値段が倍になる
→そのため、老後資金として必要な額は2000万円ではなく4000万円になる
ということの様です。
なるほど、確かに年3.5%の物価上昇が20年間続いたら、物価はほぼ倍になります。
著名なFPの方がお話をされていたということもあり、理論的にはその通りです。
もちろん、老後資金を準備しておくことは大切なことですね。
しかし、私はそもそもこの2000万円という数字が、独り歩きしすぎだと思っていました。
(注:2000万円もいらない、と言っているわけではありません)
したがって、今は4000万円必要と言われても、「そんな風に煽らなくても…」と思います。
もう一度、2000万円の根拠を確認してみると・・
ここで、もう一度老後2000万円問題の基となった、高齢者の家計収支を見てみましょう。
先ほどご紹介したURLの、10ページに記載されています。
まず、この数値の詳細を見る前に、この家庭の前提条件を確認しておく必要があります。
この総務相の統計は「男性65歳以上・女性60歳以上の高齢夫婦無職世帯」です。
因みに、2020年の65-69歳の男性の就業率は約60%・女性の60-64歳の就業率も約60%です。
また、男性については70歳以上の就業率も約25%となっています。
そうすると、「高齢者無職の夫婦世帯」は、実質は70代後半~80代など、かなり高齢の夫婦と考えた方が良いでしょう。
そして、実際の収支を見ていきます。
まず収入ですが、社会保障給付・つまり年金が90%以上を占めています。
金額が夫婦で19.1万円となっています。
これは会社員だった方ならもう少し多いし、自営の方ならもっと少ないイメージでしょうか。
支出についてはどうでしょう。
住居費は月約1.4万円程度となり、非常に低い印象です。
高齢者は持ち家の方が多いので家賃やローン負担が無いというのは理解できます。
しかしマンション住まいでも、我が家でも管理費と修繕積立金で軽く3万円を超えてしまいます。
戸建ての家でも、毎月の負担ではないにしても、修繕費等が必要でしょう。
また、教養娯楽・その他の消費支出(交際費含む)で30%を超えますが、このあたりも家庭による変動が大きいです。
60代などは社会活動も多いでしょうが、70代後半~80代ともなると支出は減る分野です。
また、家電、自家用車(地方でしたら自家用車は必須です)、先ほどの家の修繕など、特別な出費もあるでしょう。
こうした数値も平均値の中に埋もれてしまっています。
いかがでしょう。「2000万円問題」の基となった家計を自身の状況と照らし合わせてみてください。
現実的でない数値も多くみられるのではないでしょうか。
もちろん、国が出した平均値なので、データが誤っているという事ではありません。
要は、ライフスタイルが多様化する中で、「平均値」を基にしたデータは実用的でない、という事になると思います
この数値に、毎年3.5%の物価上昇が20年間…となるものだから、ますます現実的ではありません。
たまたまエネルギー価格上昇や円安等の要素が重なり、23年の物価上昇率は高くなりました。
今後物価上昇は続くと思いますが、年3.5%の物価上昇が何年も続くとは考えにくいです。
このように、2000万円問題にしても4000万円問題しても、どの様にその数値が算出されているか確認してみると、自分の場合と違うのでは?と思うところがあるわけです。
自分の中で確認しておく「老後〇千万円問題」
正直、老後いくら必要か考えるのなんて、面倒ですよね。
どんなふうに算出したら良いかわからないし、そもそも出すのが恐ろしい、という方も多いでしょう。
そんなところに、老後2000万円とか4000万円とか、具体的な数字が飛び込んでくれば、誰でも興味を持って注目するでしょう(実際私も注目してこの様な記事を書いています)
しかし、先ほどの算出根拠を見ると、この2000万円とか4000万円を基準に、自分は足りるとか足りないとか、ましてや老後資金が不足するなんて国は消しからん、などと騒いだところで、仕方ありません。
将来どんな暮らしをしていきたいのか、それにはどのくらい費用が必要なのかは、人それぞれです。
また、年金収入はどのくらいか、仕事は何歳までできるのか、持ち家なのか、家族状況は・・・これも人それぞれです。
国の出す平均値を参考にした所で、その数値は全く意味がありません。
家があって、一定の年金があり、贅沢さえしなければ、それで不足額ゼロの人もいるでしょう。
一方で、食事はいつも外食、毎年海外旅行して、高級な自家用車に乗っているという生活であれば、1億円あっても足りません。
要は、その方のライフスタイル次第だということです。
そこで、自分だけの「老後〇万円問題」を設定してみると良いと思います。
簡単に算出するには、先ほどの家計収支の項目に、自分の場合の金額をあてはめてみるとよいでしょう。
年金収入については、「ねんきんネット」で現実的な数値を確認する事ができます。
また、会社からの退職年金がある方、個人で老後のために資金準備をしている方は、その費用を含めます。
支出については、毎月の生活に必要な資金を先ほどの表に当てはめていきます。
もちろん、現在の物価水準で問題ありません。
ここには、ある程度理想の生活に必要な、趣味にかける費用や交際費なども含めるようにします。
60代~70代までと、80代以降で分けて算出しても良いですね。
こうして確認した収入から支出を差し引いて、毎月の不足額を算出します。
そして、それを12倍して年額とし、20年間・30年間といった一定年数を掛けると、その年数分の不足額(または余剰額)が算出されます。
なお、家電や車の買い替え・家のリフォーム・子供への資金援助など、毎年ではないけれども必要な資金は別途計算し、毎月の不足額の合計に加算します。
こうすることで、ざっくりではありますが、自分だけの老後〇千万円の金額を算出することが可能です。
なお、物価上昇が気になるのであれば、現在政府が目標としている「安定的な2%の物価上昇」となった場合の数値を算出しておくと良いでしょう。
因みに、2%の物価上昇が続くと、物価はおおよそ10年間で約1.2倍・20年間で約1.5倍・30年間で約1.8倍となります。ざっくりとこの倍数を掛けた数値を把握しておく程度で良いと思います。
メディアやSNSで目を引く情報を鵜呑みにしない
老後2000万円必要・4000万円必要などと言われると目に留まります。
特に今は「貯蓄から投資へ」と言われ、多くの方がこの手の情報に敏感になっています。
したがって、視聴率や閲覧数を取りたい媒体は、積極的に目を引く情報を流します。
しかしこうした情報を基に、リスクのある投資に手を出したり、投資詐欺にあったりという被害も増えるでしょう。
できれば、こうした世間を煽るような報道の仕方は避けていただきたいと思います。
しかし残念ながらこうした情報の拡散は今後もまだ続きます。
そうなると我々も、こうした情報を見た際に冷静に判断する姿勢が必要です。
私たちが取れる対策としては、テレビやSNSで流れる一方的な情報を鵜呑みにして思考停止しないこと。
そして自分の状況はどうなのか、冷静に確認しておくことで、こうした情報にも振り回されなくなると思います。