障害者の社会保障制度~障害者手帳と障害年金について
先日、障害年金を受け取られている方の家計相談がありました。
私は障害者専門でご相談を受けているわけではありませんが、それでも障害者手帳をお持ちの方のご相談も増えてきています。
また、精神疾患を患っている方がいるというお話もよく聞くようになりました。健康な方も、いつ自分がそのような状態になるかわかりません。保険を検討する際なども、自分が障害を抱えたときの社会保障制度をある程度知っておいた方がよいと思います。
ここでは、障害を抱えたときに役立つ障害者手帳と障害年金の制度の概要についてお話したいと思います。
なお、「障害」という表記については、「障がい」「障碍」といった表記をする場合もあり、自治体によって表記が異なる場合もありますが、ここでは「障害」に統一します。
「障害者手帳」は自治体の制度
障害者手帳と一般的に言われていますが、手帳の種類は「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類があり、これらを総称して「障害者手帳」と言われています。いずれの手帳も、障害者総合支援法の対象となり、都道府県や指定都市の市長から交付されます。
厚生労働省のホームページによると、平成30年時点で身体障害者手帳の所持者は約509万人、療育手帳は約112万人、精神障害者保健福祉手帳は106万人となっています。一部重複して持っている方もいらっしゃいますが、のべ約727万人に発行されていると考えると、かなり多くの方が障害者手帳を所持しているという事がわかりますね。
私たちは障害者というと、車いすの方や、白杖をお持ちの目の不自由な方などを想像します。
しかし、外見は健常者と同じでも、障害を抱えている方が実は大勢いらっしゃるという事を、私たちはまず知っておく必要があると思います。
「障害者手帳」の種類と受けられるサービス
〇身体障害者手帳
身体の機能に一定以上の障害があると認められた方に交付されます。交付の際は、医師の診断書・意見書・該当障害部分の写真を準備して、市町村窓口に申請します。
障害の度合いに応じて1級~7級まで等級があり、例えば両目失明の場は1級、言語・そしゃく機能の喪失は3級などと、部位・症状によって設定されています。6級までに認定されれば障害者手帳が受け取れ、7級の場合は2つ以上の状態に該当すれば受け取れます。
〇療育手帳
知的障害者に対して発行される手帳です。特に年齢制限はなく、18歳未満は児童相談所、18歳以上は知的障害者更生相談所にて発行されます。療育手帳は地方自治体から始まった制度であり、国の法令上の規定がないため、手帳の名前やサービス内容も自治体により異なります。そのほかの障害者手帳と同等の扱いをする自治体が多いですが、子供向けの療育支援や発達支援など独自のサービスもあるので、詳細は各自治体に確認をしてみて下さい。
〇精神障害者保健福祉手帳
一定程度の精神障害状態にあることを認定する手帳です。統合失調症・躁うつ病・てんかん・高次脳機能障害などが該当します。この手帳の等級は、精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から、1級~3級までに判定されます。なお、申請は精神疾患があると診断されてから6か月以上経過後に受付となります。
障害者手帳を所持していると、鉄道・バス・タクシーなど公共交通機関が割引で利用できる、医療費の自己負担が1割になる(1・2級のみ。所得制限あり)、携帯料金が割引になるなど、生活の様々な場面で割引料金が適用になります。例えば、都営バスは無料、都営地下鉄やJR、大半の大手私鉄は半額で乗車できます。また、所得税・住民税・自動車税の軽減もあります。
障害者手帳の発行主体は地方自治体であり、割引の詳細は市区町村や利用する各事業者により詳細の規定があります。各自治体のホームページなどに記載がありますので確認をしてみてください。
「障害年金」は年金が受け取れる制度
一方、障害者への制度としてもう一つあるのが、障害年金です。
こちらは障害者手帳の制度と混同されることが多いですが、障害者手帳が自治体で交付されるのに対して、障害年金は皆さんが支払っている年金から支給される、国の制度です。受付は年金事務所となります。
厚生労働省に資料によると、平成30年度末の障害基礎年金受給者が206万人となっており、全国民の約1.6%が受給している計算になります。こちらもかなり多い数字ではないでしょうか。
皆さんの加入している年金制度は、個人事業の方は国民年金・会社勤めの方は厚生年金の制度に加入して、それぞれ保険料を負担しています。しかし一定の障害を抱えてしまったときに、この年金制度から、障害年金として年金を受け取ることができます。
障害年金は、初診日から1年6カ月経過後、障害年金制度の障害等級(基礎年金は1・2級、厚生年金は1~3級)に認定された場合、その障害の初診日に加入していた年金制度から年金が支給される制度です。なお障害年金の障害等級と、障害者手帳の障害等級は基準が異なりますので、混同しないように注意が必要です。
支給額は、障害の程度や家族状況により異なります。例えば、国民年金加入の方が障害等級2級になった場合、年間780,100円の年金が受け取れ、また1級となった場合はその約1.25倍の975,100円が受け取れます。子供(18歳到達の年度末3月31日を経過していない子供)がいる場合は、2人までは224,500円、3人目以降は74,800円が加算されます。
このように、障害を抱えても定期的な収入を確保できる制度なので、仕事が出来なくなってしまった場合などには非常に助かる制度になります。障害者手帳よりも、家計に与えるメリットは大きなものになります。
しかし、それだけに認定基準も厳しくなっており、申請通りに認定されないケースもあるようです。申請にあたり社労士などの専門家に依頼する方法もありますが、認定される可能性も高まる分、しかるべき報酬も発生します。
障害年金申請の経験豊富な専門家に、報酬や実績などをしっかり確認の上、依頼しましょう。
多くの方が障害者手帳・障害年金の制度を活用しています
障害者手帳を持つとか、障害年金を受け取るといった事は心理的に抵抗を持たれる方もいらっしゃいます。特に精神疾患の場合などの場合、その判断基準も難しいものです。
一方で、持病の悪化などで障害が進行し、本来は障害者の認定が受けられるのに、制度のことをよく知らないために請求されていない方もいらっしゃいます。
先の数字の通り、思いのほか多くの方が障害者の認定を受けています。
障害者の認定を受けていると、障害者枠での就労が可能な制度などもあります。また、お勤めの方であれば、会社独自の福利厚生制度が設定されているなど、よく調べて見ると、暮らしに大きなメリットとなる制度があるものです。
障害を抱えながら無理をして日常生活を続けると、状態の悪化を招くこともあるかも知れません。
もし該当する障害をお持ちの場合、あるいは病気療養中の方でご自身が障害状態に該当するかわからない場合なども、生活の中で受けられるメリットを確認した上で、自治体の窓口に相談されることをお勧めします。